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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9522号 判決

一 請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第一八号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証、被告製品であることについて当事者間に争いがない検乙第一号証、原告本人、被告会社代表者各尋問の結果を総合すれば、被告は、昭和四九年一月以降被告製品を製造販売し、少なくとも昭和五三年五月一七日(被告会社代表者の尋問施行の本件口頭弁論期日)においても被告製品を製造販売していたこと(日時の点を除き被告が被告製品を製造販売していたことは被告も認めて争わない。)しかし、昭和五三年八月ころ、被告製品の製造に供していた金型を廃棄したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の認定事実によれば、被告は遅くとも昭和五三年九月以降被告製品を製造販売していないものと推認しうるけれども、被告は右のとおり昭和四九年一月から少なくとも昭和五三年五月一七日まで被告製品を製造販売したものであり、被告は被告製品の意匠が本件登録意匠に類似していないとしてこれを争つていることが本件口頭弁論の全趣旨から明らかである以上、被告は将来において被告製品を製造販売するおそれがあるものといわなければならない。前記、被告が右金型を廃棄したことは、この判断を妨げるものではない。

三 当事者間に争いがない請求の原因2の事実、成立に争いがない甲第二号証(意匠登録証添附図面(〔編註〕省略))、本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、本件登録意匠の構成及び要部は次のとおりであると認められる。

1 互いに対向して開閉可能な一対の主体部と一対の取手部により構成されている菓子焼き器であること。

2 一対の主体部の形状は、次のとおりであること。

(一) 各主体部の外周はほぼ方形であつて、その四方の角は丸味を有しており、一方の主体部には、上部の辺の中央部から該辺の約五分の一に相当する幅で上方へ向つて右幅よりわずかに長く、その先端が凸状をしている縦長の長方形状の連結用突出部が突き出ており、他方の主体部には、その先端が凹状をなしている以外は右と同様の形状の連結用突出部が突き出ていて、この両主体部が右連結用突出部先端の凸状と凹状とにおいて結合されていること。

(二) 各主体部の表面には、上部の辺と下部の辺との間の中央部分に縦方向に延びるくぼみ部分が、そしてそのくぼみ部分の左右両側にふくらみ部分がそれぞれ形成されており、表面全体が曲面状をなしていること。

(三) 主体部の閉合時における中央部の横断面の形状はほぼ8の字形であり、他方主体部の表面のふくらみ部分に沿つた縦断面の形状はほぼ楕円形になつていること。

3 一対の取手部の形状は、次のとおりであること。

(一) 各主体部の下部の辺の中央部から該辺の約五分の一に相当する幅で下方へ向つて右幅よりわずかに長く、先端へ行くに従つてやや先細となるほぼ台形状の取手装着部が突き出ており、同部の表面には、取手を連結するための後記(三)の縦長長方形板を装着するための鋲の先端が円形状に二つ表出していること。

(二) 各取手は、その上部が直線状を、下部が円弧状をなし、左右一対の辺が外側にわん曲し、上部から約三分の一のところの表面にくぼみ部分を、下端に楕円孔を有する山形状の細長い形状をしており、また、右楕円孔のやや上部に、二個の取手の閉合を維持するリング状係合金具が、一方の取手下端に回転可能に枢着してあること。

(三) 各取手装着部と各取手とが、両者よりも幅の狭い縦長長方形板により連結されていること。

4 互いに対向して開閉可能な一対の主体部と一対の取手部とからなる菓子焼き器において、前記2の主体部の形状のうち、(一)における連結用突出部の形状及び(三)後段記載の形状並びに前記3の取手部の形状(一)ないし(三)は、いずれもこの種菓子焼き器にあらわれるありふれた形状として看者の注意を惹く部分でないのに対し、同じく前記2の主体部の形状のうち前記(一)及び(二)の各構成によつて認められるところの、外周においてほぼ方形で、その四方の角が丸味を有している各主体部の表面において、上部の辺と下部の辺との間の中央部分に縦方向に延びるくぼみ部分が形成され、その左右両側にふくらみ部分が形成されている点及び前記(三)前段の構成が、その形状において、特に看者の注意を惹く部分として本件登録意匠の要部を構成していること。

四 当事者間に争いがない請求の原因4の事実、前掲甲第一六号証、前掲検乙第一号証を総合すれば、被告製品の意匠の構成は次のとおりであると認められる。

1 互いに対向して開閉可能な一対の主体部と一対の取手部により構成されている菓子焼き器であること。

2 一対の主体部の形状は、次のとおりであること。

(一) 各主体部の外周は左右の一対の辺がわずかに外側にわん曲しているものの、ほぼ方形であつて、その四方の角は丸味を有しており、一方の主体部には、上部の辺の中央部から該辺の約五分の一に相当する幅で上方へ向つて右幅よりわずかに長く、先端へ行くに従つて先細となる台形状で、その先端が凸状をした連結用突出部が突き出ており、他方の主体部には、その先端が凹状をなしている以外は右と同様の形状の連結用突出部が突き出ていて、この両主体部が右連結用突出部先端の凸状と凹状とにおいて結合されていること。

(二) 各主体部の表面には、上部の辺と下部の辺との間の中央部分に縦方向に延びるくぼみ部分が、そしてそのくぼみ部分の左右両側に曲面からなるふくらみ部分がそれぞれ形成されているところ、右ふくらみ部分の各々の両側は傾斜した平面となつており、その中央側の一対の傾斜面が中央でV字形に交わることによつて右くぼみ部分が形成されているものであり、これらの傾斜面と右曲面の交差部分において丸味を持つた角が形成されていること。

(三) 主体部の閉合時における中央部の横断面の形状はほぼ8の字形であり、他方主体部の表面のふくらみ部分に沿つた縦断面の形状はほぼ楕円形になつていること。

3 一対の取手部の形状は、次のとおりであること。

(一) 各主体部の下部の辺の中央部から該辺の約五分の一に相当する幅で下方へ向つて右幅よりわずかに長く、先端へ行くに従つて先細となるほぼ台形状の取手装着部が突き出ていること、そしてこの取手装着部の表面には、取手を連結するための後記(三)の縦長長方形板を装着するための鋲の先端が円形状に二つ表出していること。

(二) 各取手は、その上部、左右が直線状を、下部が円弧状をなし、下端に楕円孔を有し、右楕円孔の近くから全体の約二分の一にわたつて内側に溝が形成されている山形状の細長い形状をしており、また、二個の取手の閉合を維持するリング状係合金具が、その楕円孔上を横切り、一方の取手下端に回転可能に枢着してあること。

(三) 各取手装着部と各取手とが、両者よりも幅の狭い縦長長方形板により連結されていること。

五 そこで、以上の事実に基づいて本件登録意匠と被告製品の意匠とを対比してみると、両意匠は、(1)互いに対向して開閉可能な一対の主体部と一対の取手部よりなる菓子焼き器である点、(2)各主体部の外周はほぼ方形であつて、その四方の角は丸味を有しており、一方の主体部には、上部の辺の中央部から該辺の約五分の一に相当する幅で上方へ向つて右幅よりわずかに長く、その先端が凸状をなしている連結用突出部が突き出ており、他方の主体部には、その先端が凹状をなしている以外は右と同様の形状の連結用突出部が突き出ていて、この両主体部が右連結用突出部先端の凸状と凹状とにおいて結合されている点、(3)各主体部の表面には、上部の辺と下部の辺との間の中央部分に縦方向に延びるくぼみ部分が、そして、そのくぼみ部分の左右両側にふくらみ部分がそれぞれ形成されている点、(4)主体部の閉合時における中央部の横断面の形状がほぼ8の字形であり、またふくらみ部分に沿つた縦断面の形状がほぼ楕円形になつている点、(5)各主体部の下部の辺の中央部から該辺の約五分の一に相当する幅で下方へ向つて右幅よりもわずかに長く、ほぼ台形状の取手装着部が突き出ていること、そしてこの取手装着部の表面に、取手を連結するための縦長長方形板を装着するための鋲の先端が円形状に二つ表出している点、(6)各取手が上部において直線状、下部において円弧状をした山形状の細長い形状をしており、かつ、下端に楕円孔を有する点、(7)各取手装着部と各取手とが、両者よりも幅の狭い縦長長方形板により連結されている点において一致している一方、(8)被告製品の意匠では各主体部の外周のうち左右の一対の辺がわずかに外側にわん曲しているのに対し、本件登録意匠では各主体部の外周の左右の一対の辺は直線状である点、(9)各主体部の表面が、本件登録意匠では曲面のみにより構成されているのに対し、被告製品の意匠では曲面と傾斜面とにより構成されていて、その交差部分に丸味のある角が形成されている点、(10)本件登録意匠における連結用突出部の形状が縦長の長方形状であるのに対し、被告製品の意匠におけるそれが台形状である点、(11)本件登録意匠では、各取手の左右一対の辺がわずかに外側にわん曲し、また、各取手が上部から約三分の一のところの表面にくぼみ部分を有しているのに対し、被告製品の意匠では、各取手の左右一対の辺は直線状をなし、また、各取手が右のようなくぼみ部分を有していない点、(12)リング状の係合金具が、取手下端にみられる楕円孔のやや上部に存在するか、楕円孔を横切つて存在するかという点、(13)被告製品の意匠では先端が凹状の連結用突出部を有する主体部側の取手の楕円孔の両側に円形の小突起があるのに対し、本件登録意匠ではそのような突起がない点、(14)被告製品の意匠では右楕円孔の近くから取手全体の約二分の一にわたつて内側に溝が形成されているのに対し、本件登録意匠では該部分にそのような溝がない点において相違している。しかして、右の相違点のうち、(10)ないし(14)は、いずれも、本件登録意匠の要部に関しない部分の相違であり、また(9)については、本件登録意匠における各主体部の表面に関する要部は、前認定のとおり、各主体部の表面において上部の辺と下部の辺との間の中央部分に縦方向に延びるくぼみ部分が形成され、その左右両側にふくらみ部分が形成されている点であつて、それが曲面のみにより構成されているか曲面と傾斜面により構成されているかはこれを問わないから、(9)も本件登録意匠の要部に関しない部分の相違というべきであり、更に、(8)は、本件登録意匠の要部に関するものではあるけれども、その相違の程度は微少であつて、両者は看者に対し、極めて類似している、ないし同一に近いという印象を与えるものというべきである。他方本件登録意匠と被告製品の意匠とは右(8)の点以外の意匠の要部を同一にし、しかも両意匠を全体的に観察した場合、看者に与える美感を同一にするものと認めるを相当とする。よつて、被告製品の意匠は本件登録意匠に類似するものといわなければならない。

六 してみると、被告に対し被告製品の製造販売の差止めを求める原告の請求は理由がある。

しかして、前記第二項で認定したとおり、被告は既に昭和五三年八月ころ、被告製品の製造に供していた金型を廃棄したものであつて、もはやこれを所有していないことが明らかであるから、被告に対し被告製品の製造に供した金型の廃棄を求める原告の請求は理由がない。

また、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証によれば、被告は既に昭和五三年九月ころ、その所有にかかる被告製品をすべて廃棄したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実及び前記金型廃棄の事実によれば、被告は現に被告製品を所有していないものというべく、したがつて、被告に対し被告製品の廃棄を求める原告の請求も理由がない。

七 前記第五項によれば、被告が被告製品を製造販売した行為は本件意匠権を侵害するものというべく、被告は右侵害行為について過失があつたものと推定されるところ、この推定を覆すに足る主張、立証はない。したがつて、被告は、原告に対し、右侵害行為により原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。

そこで進んで、原告の被つた損害について判断する。成立に争いがない甲第一八号証によれば、被告は、昭和四九年一月一日から同年八月末日までの間に株式会社ダイエーに対し被告製品を合計八、〇〇〇個販売したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。してみると、特段の事情が認められない本件では被告は、右認定の期間、少なくとも毎月平均一、〇〇〇個は製造販売していたと解するに妨げないというべきところ、原告が損害賠償請求の基礎とする期間の残りの期間すなわち昭和四九年九月一日から昭和五一年九月末日までの期間、被告が被告製品の製造販売を減少させたことを認めるに足る証拠がない以上、右期間においても毎月平均一、〇〇〇個を製造販売していたものと認めるのを相当とし、右認定に反する被告会社代表者尋問の結果は前掲証拠に照らして採用し難い。他方、原告本人尋問の結果中には、被告製品の製造に供した金型が高価(金一五〇万円ないし金三〇〇万円)であること及び被告製品の販売先がスーパーマーケツト等かなり規模の大きい店であること等から被告は被告製品を毎月三、〇〇〇個製造販売していたと推定できる旨の供述部分があるけれども、被告製品の製造に供した金型の価額が約金七万円である旨の被告会社代表者尋問の結果に照らせば、右金型の価額が原告本人の供述どおりであるとはにわかに断定し難く、また販売先の規模が直ちに原告主張の製造販売個数に結びつくものともいい難いから、原告本人の前記供述部分は採用することができない。その他本件全証拠によるも、原告主張の期間中に被告が被告製品を毎月一、〇〇〇個を超えて製造販売したとの事実は認められない。また、原告本人尋問の結果及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告製品の一個当たりの販売価額は金六〇〇円と認められ、被告会社代表者尋問の結果はいまだ右認定を左右するに足りず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

しかして、原告は、本件登録意匠の実施に対する通常の実施料相当額を被告の本件侵害行為によつて受けた損害の額として請求するものであるところ、原告本人尋問の結果及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、右実施料は販売価額の五パーセントと認められる(右認定を覆すに足る証拠はない。)から、原告が被告に対し損害として請求することができる実施料相当額は、一個当たりの販売価額金六〇〇円に実施料率〇・〇五及び昭和四九年一月一日から昭和五一年九月三〇日までの被告製品の製造販売個数合計三万三、〇〇〇個を乗じて得られた金九九万円となる。

八 してみると、被告に対し不法行為に基づく損害賠償を求める原告の請求は、右損害金九九万円及びこれに対する不法行為の後の日であつて本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五一年一一月一二日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がない。

九 以上の次第であるから、本訴請求のうち、被告製品の製造販売の差止めを求める請求は正当として認容し、被告製品及び被告製品の製造に供した金型の各廃棄を求める請求は失当として棄却し、また損害賠償請求は前示認定の限度において正当として認容するもその余は失当として棄却することとする。

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